フィンランドから日本全国に広がるアップサイクルカルチャーイベント『クリーニングデイ』が広がっていくことを願って、2016年5月から開催をしています。
今回、『クリーニングデイ福岡vol4』に際して、“アップサイクル”を体現するモノを作りたいと考えて制作したのが、『帳面』でした。
そもそものきっかけは、私が活版印刷に興味を持ち、3年ほど、鳥飼にある『文林堂』さんに足を運んでいたことから。
店主の山田さんは、昭和20年代の活版隆盛期、まだ一桁の歳の頃から、家業である印刷所の仕事を見てきた、印刷のプロフェッショナル。
昨今の活版印刷ブームにのってしばしば注目を浴びている山田さんですが、印刷全般が好きで、活版を含めた印刷の持ち味を使い分けるバランス感覚を持った“印刷職人”
「紙」には、定型の大きさというものがあります。
印刷の過程で、形を整えるために断裁した上質紙の紙片を、サンプル作りや、再利用のためにストックされているのを見せてくださいました。
「これ、使ってもいいですよ」熱心に見ている背中に、山田さんの鶴の一声。
そして、印刷所の壁を埋め尽くす 「活版」
“版”を“活かす”と書いて=「活版」
アップサイクルなモノ作りは、ここから着想しました。
断裁紙片の形をそのまま活かして、活版で印刷して価値を引き上げる。
使う人によってフレキシブルに使える形状にすれば、さらに価値が高まります。
昔、祖父母の家で『帳面』と呼んでいた大福帳の姿がすぐに浮かびました。
今回使わせていただいた版は、佐賀県の印刷所の跡で、竹やぶに覆われた保管所から救い出されたもの。引き取ってから初めて使用するというもので、山田さんもまだ、版の把握をしきれていないということ。
抜けてしまっている字もあり、あるもので版組みをすることにしました。
版を探すのは、素人にはものすごく難しい作業。
どうしても自力で見つけきれない文字があると、ものの数十秒で山田さんが見つけてくださいます。
版を組みます。自分で組むののは初めての体験です。
今回使用させていただいたのは、アルビオン型手引き印刷機
明治時代に外国製を模して作られた日本製。鋳物の堅牢な機械の所々に補修の跡。大事に使われてきたことがわかります。
これまでこの機械で数々の大切なお仕事をされているのを目にしていたので、ちょっと汗が出てきました。
セットの仕方、印刷位置の調整の仕方などを教えていただき、いざ印刷です。
コーヒー好き、コーヒー屋さんの雑記帳として作った
「コーヒーがうまかバイ!」バイがカタカナなのは、ひらがなの版がなかったからです。
「甘苦薫美」の4文字は、私が考えるコーヒーと人生の楽しみ
一枚一枚から笑い声の聞こえそうな帳面
「紙」の魅力「紙」という文字もまた素敵です。これは全ページに印刷しました。
常々「白黒つけない」ということを大事にしています。
この2つの丸い版が目に飛び込んできたので組んでみました。
印刷したものを乾かします。
3日間、とにかく毎日印刷しました。楽しくて没頭しました。
1,000枚は印刷しました。
それぞれ束にまとめながら穴を開けていきます。
ここまでは文林堂さんで作業させていただきました。
そして『スタヂオポンテ』に移動
主宰の初島さつきさんのアトリエ兼、お教室でもあります。
プロのカリグラファーでもある初島さんは、イギリスでブックバインディングを学ばれています。
シンプルな『帳面』とはいえ、プロの手が入ることが大事でした。
久留米絣や、上質なリネンのハギレを使い、温かみのある『帳面』の完成です。
『クリーニングデイ福岡vol4』当日は、使用した活版も一緒に展示。
「これはハンコですか?」などのご質問も受け、動画を見せたりしながら活版印刷のお話ができました。
手間暇かけたモノ作り。とても貴重な機会となりました。
断裁紙片のかたちそのままを、活版の魅力でより価値高く、日常の雑記を楽しくという、今回の“アップサイクル”なモノ作りは、ご購入いただいた方から嬉しいコメントをいただけたことで、ひとまず成功と言えます。